男鹿高原駅はなぜ作られた?秘境駅の歴史と現在の姿を歩いて探訪

栃木県日光市の秘境駅・男鹿高原駅のホームと山々を写したイメージ画像
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2025年8月24日、栃木県日光市にある秘境駅「男鹿高原駅」を訪れました。
周囲に人家も観光施設も見当たらないこの駅は、なぜ存在しているのでしょうか。かつてリゾート開発のために誕生した歴史や、現在の利用状況、そして実際に歩いて訪れて感じた静寂の魅力をご紹介します。

目次

男鹿高原駅とは?秘境駅と呼ばれる理由

栃木県日光市の山あいに位置する男鹿高原駅(おじかこうげんえき)は、野岩鉄道(やがんてつどう)・会津鬼怒川線の無人駅です。標高はおよそ760メートルにあり、深い森に囲まれた静かな環境にあります。周囲には人家や商店がなく、駅を降り立った瞬間から人の気配がほとんど感じられない特異な駅です。

駅近くにある野岩鉄道の男鹿高原変電所。利用者よりも鉄道設備の存在感が際立つ

この駅が秘境駅と呼ばれる理由のひとつは、利用者の少なさと停車本数の少なさです。1日の列車本数が非常に限られているため、日中は長時間列車が来ない時間帯も珍しくありません。駅を訪れても、ほとんどの場合は「誰もいない」光景に出会うことになります。

森の中にひっそりと佇む駅舎。林道を進んだ先に忽然と姿を現す

駅前に広がるのは自然と鉄道関連の施設だけです。野岩鉄道の変電所や緊急時用のヘリポートが整備されていますが、観光施設や住宅は一切見当たりません。そのため、駅は地域住民の生活拠点というよりも、鉄道の運行を支えるための設備の役割を担っている側面が強くなっています。

男鹿高原駅の入り口。小さな駅舎が秘境駅らしい雰囲気を漂わせている

都会の駅では味わえない静寂、山々に囲まれた独特の雰囲気、そして人の姿が見えない孤独感。男鹿高原駅は、まさに「秘境駅」と呼ぶにふさわしい存在です。

なぜ作られたのか?男鹿高原駅の誕生背景

男鹿高原駅が開業したのは1986年(昭和61年)、野岩鉄道・会津鬼怒川線の全線開通と同時でした。この路線は、東京と会津地方を結ぶ新たな交通の要衝として期待されただけでなく、沿線の観光開発を進める狙いがありました。特に男鹿高原周辺は「会津フレッシュリゾート構想」と呼ばれるリゾート開発計画の舞台となり、将来的にスキー場や観光施設が整備される予定でした。そのため、この山奥に駅が設置されたのです。

駅へ続く細い林道。観光リゾート開発を意識して作られたはずが、現在は自然に飲み込まれつつある

当初は快速や区間快速、さらには浅草からの直通特急も停車し、観光客が訪れやすい駅として整備されました。秘境というより、将来の観光拠点としての役割が期待されていたのです。

駅前は静かな林に囲まれている。当時の計画では、この地に観光施設が立ち並ぶ未来が描かれていた

しかし、その構想はバブル崩壊や需要不足により実現することなく頓挫します。観光客の流入は期待ほどではなく、駅周辺に施設が建設されることもありませんでした。結果として、駅だけが取り残され、利用者の少ない無人の秘境駅として今日まで存続しているのです。

駅舎周辺には何もなく、当時のリゾート計画が幻に終わったことを物語っている

男鹿高原駅は「なぜここに駅があるのか」と疑問を抱かせる存在ですが、その背景には地方振興を夢見たリゾート開発の歴史が隠されているのです。

現在の駅の姿と利用状況

リゾート開発計画が実現しなかった現在の男鹿高原駅は、利用者がほとんどいない秘境駅として知られています。2020年代に入ってからも年間の平均利用者数は一日数人程度で、日によっては誰も降りない日が続くこともあります。私が訪れた時も、駅前からホームに至るまで人影はなく、ただ山の静寂が広がっていました。

無人の駅舎とベンチ。ひっそりと置かれた赤い椅子が、訪れる人の少なさを物語る

駅舎の中には簡単な待合スペースと掲示物があるだけで、切符売り場や売店は存在しません。利用者は乗車時に車掌から切符を購入する仕組みで、秘境駅ならではの簡素さを感じさせます。

壁に貼られた時刻表。わずかな列車本数が、この駅の孤独な現実を表している

ホームへ続く階段を降りると、森に囲まれた一本の線路とホームだけが延びています。視界の先にはトンネルが見え、列車が来るまでの時間は、ただ鳥の声や風の音だけが響く空間です。

ホームから見た線路。緑に飲み込まれるように続く景色は、まさに秘境駅の象徴

駅名標を眺めながら立っていると、自分が本当に現実の鉄道路線上にいるのか、あるいは過去に置き去りにされた空間に迷い込んだのか、不思議な感覚に包まれます。これが現在の男鹿高原駅の姿であり、秘境駅を訪れる人々が惹かれる大きな理由なのです。

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男鹿高原駅周辺にあるもの

男鹿高原駅の周辺には、観光客向けの施設や人家はほとんど存在しません。駅前に広がるのは林と舗装された広場だけで、整備されているのは鉄道関連の設備と緊急用の施設です。

駅前広場にある緊急用ヘリポート。普段は静まり返っているが、災害時や救助活動の拠点として利用される

また、駅のすぐ脇には鉄道の運行を支える変電所が設置されています。これは沿線の電力を安定供給するための重要な施設であり、駅そのものよりもこの変電所の存在が優先されていることが感じられます。

駅近くの変電所。秘境駅のそばにある鉄道インフラは、利用者よりも鉄道維持のために存在している

駅周辺を歩くと、熊出没注意の看板や山道の入口が点在しており、自然の厳しさも垣間見えます。整備された道を抜ければ国道121号線に出られますが、そこまでの道のりも人影は少なく、行き交う車の音だけが文明を感じさせる要素です。

駅から国道121号線へ続く道。自然に囲まれた一本道は訪れる人を静寂へと誘う

こうした環境から、男鹿高原駅は観光地や生活拠点というよりも、鉄道運行の補助設備と防災拠点としての役割を担っているといえます。秘境駅でありながら、地域を支える「縁の下の力持ち」として存在しているのです。

まとめ:秘境駅に残された価値

男鹿高原駅は、観光開発の夢が頓挫したことで人々の往来が途絶え、静寂だけが残された駅です。しかし、その「何もない」環境こそが、訪れる人に特別な体験を与えてくれます。

ホームから望む山の緑と線路。人の姿がなくとも、鉄道は確かにここを通っている

駅舎に足を踏み入れても待つ人はいなく、ホームに立っても電車が来る気配はしばらく訪れません。その孤独感は、都会の喧騒から離れたい人や、鉄道旅に非日常を求める人にとってはかけがえのない魅力です。

男鹿高原駅の駅名標。秘境駅を象徴する存在感が漂う

かつてはリゾート地として賑わう計画があった場所に、今はただ駅だけが残り、鉄道ファンや探訪者を迎え入れています。男鹿高原駅は、鉄道の歴史と人の営みの跡を感じさせる「生きた遺産」といえるでしょう。

秘境駅を訪ねる旅は、不便さと引き換えに特別な時間を与えてくれます。男鹿高原駅もまた、その静寂と存在理由の不思議さによって、訪れた人の心に強い印象を残すはずです。

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